美女に幸あり

久しぶりに遊んでもらおうと思い、友達のMちゃんに連絡したところ、意外な返事が。

「妊娠中なので、派手に遊べないけど会いましょう」

私はびっくりした。なぜならバツイチの彼女はいつも私に「一寸先は闇って、結婚のことだったわ」といみじくも言っていたのだ。しかも「仕事が楽しくて仕方ないし、とうぶん結婚する気はない」とずっと言っていた。


Mちゃんはアーバンな雰囲気をもつ誉れ高い美女だ。ハイモードに身をつつみ、社会人として雄々しく戦っている。彼女は音楽に生まれながらの美意識を持ち、実に勉強した人であった。ひとりの食事のときも、素敵な食器を使い、おいしい料理をつくる。気の合う女友達を持ち、深い友情を結ぶ。もちろん恋もいっぱいして、素敵な男性にも事欠かない、など独身女性だったらかくありたいと願う理想的な生活をしていた。


Mちゃんが料理をする空間が、私はとても好きだった。美しい佇まいの影が、Mちゃんに優雅な影をつくる。そのフォームから流れる清澄さは、まさしく音楽なのだ。

こまやかな指先がそのまま五線紙になって、食材が音符になりやさしい調べを奏でる。この“人に酔う”という感覚は、何ともいえず心地よい。Mちゃんからもれる旋律が、人間の肉体のリズムに合っているのである。


私は驚いて、待ち合わせのカフェへ鼻息荒く向かった。

「これってどういうことなの」

「実は仕事先で知り合った人と急に結婚することになって…」

なおもかさねて、Mちゃんはしみじみと言う「実はね、私、それでもいいかなあって思うようになったの。こんな風にだらしなく結婚が決まるのも、私の運命かもしれないって、私、思うようになったの」


“運命”という言葉が出てきて、私にもう何が言えただろうか。

南の島で、そう好きでもない男性と抱き合ったのも運命。子供ができたのも運命。男性が大喜びしたのも運命。その運命とやらは、ただひとつ大きな方向を指さしているだけなのだ。その男性と結ばれ、子供を産み家庭をつくるのだと。


私たち、大人の女性って、どうしてこう運命という言葉に弱いのだろうか。

まるで信仰のようなものだ。こんなに酸いも甘いも嚙み分けて、頭もいいって人にも言われるし、自分でもこっそりそう思ってる女性が、運命という言葉に他愛もなくくにゃくにゃになってしまう。運命って言葉を言われると、もう駄目だ。この男性にすべてゆだねようって思ってしまう。他のすべてを捨ててもいいとさえ考えてしまうのである。


目の前の女性、Mちゃんもただ幸せになりたいのだ。すべてのこんがらがっているもの、矛盾するものに目をつぶり、運命という言葉を遣うことにより幸せになりたいのだ。そう、単に幸せになりたいのだ。


私の周りの人たちのえらいところは、一回目よりも二回目の結婚の方が、ずっとキレイで幸せそうだということである。私はちょっぴり羨ましい。結婚に関しては私はポジティブな思考で、決して「離婚した」とマイナスには考えない。“二回も結婚できる幸せな人”と思う。だってそうではないか。よっぽど魅力がなければ、バツイチの女性に次の人は現れない。


旦那さんになる方は年下のスポーツ選手で、肉食系男子なんだそう。

彼らはいい意味で、オスのシンプルさを持っている。美人が好きで、惚れたとなると強引で直進してくる。その代わり、嫉妬深く女性に対して非常に保守的である。一流のスポーツ選手なら、なおさらだ。


彼らは女性に対する願望はちょっと古くさいけれども、その分、女性もシンプルなメスになれるのだ。仕事と家庭の両立、などと悩まなくてもいい。男女の駆け引きも無用だ。

「とにかくオレのものになれ。オレが守るから、ガタガタ言うな」と言う男性は、今の時代にあって新鮮である。女性は男性の愛情にどっぷりつかっていればいい。

まあ、こういう男性は多情な人も多いが、それがどれほどのことであろうか。自分だけの物語を構築できる女性は、夫の浮気程度で揺らいだりしないものだ。


やっぱりそういうのっていいよなあ。Mちゃんって、すごい勝利者なんだわ。何人っていう女性の中から勝ち抜いて、こうして妻の座を手に入れたんだわ。その誇らしさが、彼女をますます美しくしている。私はそれだけでおそれいっちゃうのだ。


結婚式というのは、男性も女性もいちばん美しいときである。男性はたくましく、女性はこの上なく愛らしい。そして二人は見つめ合う。男性はそのときこの女性を自分のものにできるという幸福で輝くし、女性は男性の目の中に浮かぶ自分への賞賛を忘れまいとする。だから人というのは、結婚写真を大切にして、時々取り出して眺めるのではなかろうか。


「結婚なんて楽しいのは半年、あとは惰性だけよ」などという人に、私は問いたい。

永遠に継続する幸福などというものが、この世にあるのだろうか。そんなものは何ひとつありはしないではないか。それがわかっているからこそ、なおさらほとんどすべての人が、結婚をしてみたいと望むのである。




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