美しさのまとい方 女性の脳と男性ホルモン
女性ホルモンは女性らしさ、男性ホルモンは男らしさに関係するのではないかとよくいわれてきた。しかし、“女性らしさ、男性らしさ”といっても曖昧な概念である。
女性は男性の1/10以下程度ではあるが、テストステロン(男性ホルモン)は存在している。テストステロン値は日内変動があり、加えて月経周期による変動もみられ、排卵期には多少高値となる。このようなことを考慮しても、テストステロン濃度にはエストロゲンと比較し、女性間で個人差がある。
【男性ホルモンの分泌が多い女性】
テストステロン値が高めの女性は、競合性、自立性、意志強固などの性格傾向を有し、行動的で処世術にたけいているという研究報告がある。これらの性格は社会に進出するには適しているように思われる。これと関連して、女性を対象として唾液中のテストステロン濃度を測定し、それと女性の社会的立場との関連を検討した研究がある。
それによると、テストステロン値が高いほど大学教員、銀行員、医師、技術者などの専門職についている割合が高いという結果であった。一方、テストステロンが低めの女性は、自身の性格を温和で優しく、しかも感性が豊かで感受性が高いなどと述べている。
女性ではテストステロン分泌の多寡がスポーツのパフォーマンスに影響する。テストステロンは筋肉と骨の成長を促進する以外に、脳の中枢へ作用して攻撃性や競争本能を高める効果がある。血中のテストステロン値が高い女性は、やや筋肉質の体型であり、瞬発的な筋力を競う競技では有利となる。
【胎児期の脳へのテストステロン】
胎児期に女性の脳がテストステロンなどの男性ホルモンにさらされると、神経系や脳回路がより男性的な特徴をともなって発達する。この出生前のホルモン環境が、乱暴な遊びを好む傾向や性的指向といった行動特性にいつまでも影響を及ぼす。
子宮内で高いテストステロンにさらされた女性の幼少期の記憶をもとに、自身が自覚する性別や性的指向を評価した研究がある。彼女たちは、出生前にテストステロンにさらされなかった女性に比べ、男の子っぽい遊びを好んだ。また同性愛の傾向も強く、同性愛者や両性愛者になる確率が高い。
左利きの人は、男女とも10%前後である。さまざまな調査結果では若干男性の方が左利きの割合が多い。最近の研究によると、胎内の性ステロイドホルモンの環境が利き腕と関係していることがわかった。母親が妊娠中に女性においてエストロゲンが優位だと左利きに、テストステロンの作用が若干高まると右利きに傾く。
さらに、この仮説を裏付けるデータとして双子の調査結果がある。胎児期には、男児ではテストステロンが作られ、女児ではエストロゲンのみが存在する。男女の双子では、女児と男児が同時期に子宮内で発育するため、女児は男児が作るテストステロンに曝露される可能性がある。一方、女児同士の双子ではそのようなことはない。そこで男女の双子と女児同士の双子の利き腕を調べたところ、男女の双子の女児では、左利きは5.3%であるのに対し、女児同士の双子では8.6%と明らかに多かった。
右利きの女性は左利きの女性と比べ、血中のテストステロン値が高いという研究報告がある。胎児期に、エストロゲン優位かテストステロン優位かにより、脳の構造が影響されることから、胎児期の性ステロイドが利き腕と関係するということはそれほど不思議なことではない。
【脳の衰えとテストステロン】
残念ながら閉経期の女性の脳から失われるのはエストロゲンだけではない。女性のテストステロンレベルが高いのは19歳で、45~50歳になると70%も低下し、多くの女性はテストステロンレベルが低い状態になる。これは閉経で卵巣がホルモンを産生しなくなるだけではなく、受胎能力があるあいだはDHEAとい前駆ホルモンのかたちで女性のアンドロゲンとテストステロンの70%を供給している副腎の産生機能も大きく低下し、副腎皮質機能停止というホルモン状態が起こるためだ。視床下部の性中枢で性的関心を刺激するにはテストステロンが必要だから、肉体的精神的な性欲エンジンは失速してしまうことがある。
近年、男性の場合にはテストステロン補充療法が非常に一般的となった。しかし医師たちがテストステロンのジェルや貼付薬、クリームを女性患者にも処方するようになったのはごく最近だ。女性が性欲の低下を訴えるとき、テストステロン補充療法によって性的関心が戻ることは多い。マイナス面としては、髪が薄くなる、ニキビが出る、体臭が強くなる、髭が生える、声が太くなるなどの副作用がある。しかし脳への集中力が高まる、気分がよくなる、エネルギッシュになる、性的関心が高まる効果があるから、男性でも女性でもおおぜいが、副作用のリスクはあってもテストステロン補充療法を続けたいと言う。
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