美容の皮膚科学 真皮
真皮とは表皮の下にある厚い層で、皮膚の本体である。そのため真皮といわれる。表皮の数倍から数十倍の厚さである。皮膚の張りと硬さ、それから弾力は主にこの真皮でできるのである。
<真皮>
真皮は乳頭層、乳頭下層、網状層の3つに区別されている。しかし、この3つの層の境は表皮の5つの層のようにはっきりしているわけではない。
①乳頭層:真皮の中でその際分が最もまばらにみられる部分で水分が多い。水分は真皮の基質と呼ばれるヒアルロン酸などのムコ多糖類にたっぷりと含まれた形で存在する。またここに皮膚の毛細血管が終わっている。皮膚細胞に必要な栄養や酸素などはこの毛細血管から配られる。また心臓を出発した血液が体内をめぐり、最後にたどり着くのが皮膚である。このため、途中で血中に入り込んだ有害物質が毛細血管で引っかかって蕁麻疹や皮膚炎が起こることも少なくない。
②乳頭下層:乳頭層の下の部分で、網状層にいくまでの層である。
③網状層:真皮の最も厚い部分である。横に長い、細い線維が網目状にならんでいるので、この名がある。この線維の大部分はコラーゲン(膠原線維)と呼ばれる皮膚の形を保つ大きな線維で、それにエラスチン(弾力線維)と呼ばれるゴムのように弾性を与える線維が加わっている。
これらの真皮の性質の中で美容上大切なことは、乳頭層から乳頭下層にかけて線維がまばらで、その部分に水分が多いことである。そのため皮膚の表面の表皮は網状層に対して動きやすくなっている。
しかも、網状層は線維が密に網状にならんでいて、その上の層にある水分は下に向かってしみこみにくい。そのためにここに十分の水分があると、皮膚の表層は張ってくる。反対に水分が少なくなってくると、皮膚の表面はしなびてくる。つまり水分を含有しているムコ多糖類が多くあれば張りのあるみずみずしい皮膚になる。
ただし皮膚の外から水分を与えても真皮にまでは入っていかない。浸透するのは角層までである。みずみずしい皮膚の性格はこうしてできるが、真皮だけでなく角層に十分の水分が含まれていることも大切である。
<加齢に伴う真皮の変化>
真皮の主要成分は細胞外マトリックス(細胞と細胞の間を満たす物質)と線維芽細胞である。真皮の主な細胞外マトリックスは、皮膚に強度を与えるコラーゲン、真皮に弾力をもたらすエラスチンとその間を満たすヒアルロン酸である。
①光老化
真皮の線維芽細胞は細胞外マトリックスを産生、分解しその状態を調節している。紫外線はこの線維芽細胞の状態に変化をもたらす。紫外線の中でもUVAは真皮層の上部まで到達し、線維芽細胞のDNAにダメージを及ぼす。これにより線維芽細胞のコラーゲン産生能が低下する。さらにダメージを受けた線維芽細胞からは、コラーゲンを分解する酵素(MMP1)が産生され、周囲のコラーゲンの産生が低下し、分解が進むことで真皮のコラーゲン量が減少する。
紫外線は線維芽細胞からのエラスチンの産生にも影響を及ぼす。通常、線維芽細胞が生み出すエラスチンは繊維状であるが、紫外線の影響により球状となる。露光部の皮膚では、この異常なエラスチンが蓄積して真皮性シワ(老化ジワ)が発現する。
②真皮の薄化
高齢者では真皮の厚さは著しく減少している。これは加齢により顔面の真皮では主成分であるコラーゲン量やヒアルロン酸量が減少するからである。このように顔面では真皮の質的変化に加えて、量的に減少することで変形に対する抵抗性や回復性が低下し、真皮性シワ(老化ジワ)やたるみに繋がる。
③たんぱく質の糖化
組織の状態を悪化させる要因として、組織を構成するたんぱく質の糖化反応が知られている。たんぱく質最終糖化生成物(AGEs)は組織を構成するたんぱく質の変性のみならず、AGEs受容体を介して細胞に炎症性のサイトカインの産生を促し、組織障害を引き起こす。例えば、糖尿病では網膜等で顕著にAGEsが蓄積して障害をもたらすことが知られている。真皮では加齢に伴いエラスチンの糖化が進む。このような真皮の構成成分の質的変化により、皮膚の弾力性が低下し、真皮性シワ(老化ジワ)やたるみの増加に繋がる。
④皮下脂肪層の変化
加齢に伴い真皮層のコラーゲンが著しく欠損して皮下脂肪に置き換わる。この現象が真皮に空洞ができたようにみえることから「真皮空洞化現象」と呼んでいる。
コラーゲンやエラスチンは皮膚に弾力性をもたらすが、脂肪組織(脂肪細胞からなる結合組織)の弾力性は非常に低い。そのため空洞化により皮膚の弾力性が低下する。よって皮下脂肪量が多い人ほど真皮に悪影響を及ぼし、皮膚の弾力性が低下してたるみが大きくなる。一般には「皮下脂肪が多い人の方が、顔が張っていてたるんでない」等と考えられているが、それとは逆の状態となる。さらに皮下脂肪増加に伴い脂肪細胞のサイズが肥大化すると、線維芽細胞のコラーゲン、エラスチンの遺伝子発現は低下する。また肥大化脂肪細胞が存在すると、線維芽細胞ではMMP13(真皮のコラーゲンを分解する酵素)の発現が増加する。このように肥大化脂肪細胞が存在すると線維芽細胞の状態が負の方向に制御される。
<スキンケア>
①表情筋へのアプローチ
顔には表情を作り出す筋肉(表情筋)が存在する。表情筋の末端は皮膚に結合しており、表情筋が皮膚の保持に関与している。そのため加齢や表情の乏しい生活習慣(表情筋の活動量が低下した状態)により表情筋の機能低下はたるみに繋がる。
適切な負担を伴う運動を行うことで筋機能を改善し、たるみを改善することが確認されている。見た目の老化の改善には極めて有用な手段の一つと考えられる。
一般に筋運動は継続して実施することが重要である。中断により効果は著しく低下する。
②真皮へのアプローチ
深いシワやたるみを解消する成分としてまず思い浮かべるのが、コラーゲンやヒアルロン酸などであるが、これらを皮膚に塗布すると皮膚表面の角層に浸透して保湿剤として働くが、真皮のコラーゲンやヒアルロン酸になるわけではない。
真皮に存在するコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸を生み出す線維芽細胞を活性化させる成分とその線維芽細胞まで成分を届ける技術が必要である。
線維芽細胞を活性化させる成分はFGF、ペプチドなどある。
化粧品の成分は通常角層までしか浸透しない。それ以上吸収(経表皮吸収)できるとされているものは高い技術が必要となる。化粧品でよく用いられているのは、リン脂質でつくられる直径およそ0.数μm(マイクロメートル)のリポソームとよばれるものである。それは特殊な構造のカプセルで、動物の細胞膜と同じリン脂質による二重膜でできているため肌なじみがよく、成分を効果的に真皮まで届ける役割が期待できる。
真皮の主要成分である細胞外マトリックスをターゲットとした成分としては、ビタミンA(レチノール、レチノイン酸)、ビタミンC、カルノシン、ブナの芽エキス、ウコンエキス、ショウキョウエキス、N-メチル-L-セリン、ムスコン、スフィンゴシン誘導体、フォスフォラミドン誘導体、フコイダンなどがある。これらはアフターケアで使用すると十分な効果が期待できる。
こちらは、ヴァルモン #プライム リニューパック
細胞を増加させたり、活性化させる作用があるペプチドが配合されており、成分を角層下まで吸収させるリポソーム技術が使われている。
リポソーム技術を使って機能性成分をナノ化されるようになったのはコラーゲン、ヒアルロン酸、ビタミンCなど化粧品に配合されているほぼすべての成分の分子が大きすぎて角層下まで吸収されないためである。しかし、安全で効果の高いリポソームコスメをつくるのには高額な費用と高い技術が必要となる。メーカーの技術力をよく調べたうえで「ナノカプセル」と表示せずに「リポソーム」と表示されているものを選ぶことが重要である。
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