美しさのまとい方 エストロゲンと若さ
【エストロゲンは抗老化ホルモンか】
老いとは全身性の変化であり、その本態は不明な点が多い、最近よく抗老化(アンチエイジング)という言葉を耳にするが、医学的に厳密に規定されている概念ではない。そのためさまざまな物質が、抗老化作用があると喧伝されている。そのなかで″ホルモン″は、生物学的作用や作用機序が明らかで、それらの作用の一部は抗老化作用とみなすことができる。
代表的なホルモンがエストロゲンであり、それ以外に男性ホルモン(テストステロンや副腎由来の男性ホルモンであるディハイドロエピアンドロステロン)、成長ホルモンなどがある。しかし、ホルモンの作用は確実でしかも微量で作用を発揮することから、不適切な作用は副作用をもたらし、むしろ有害なことがある。特に男性ホルモンや成長ホルモンはドーピング禁止物質となっており、投与は慎重にすべきである。
エストロゲンを、卵巣機能を喪失した女性に補充投与することで、心臓病のもとになる動脈硬化の進行を遅らせ骨量を維持することができる。また認知機能を改善することや、皮膚の老化を抑える。このように、エストロゲンには老化に伴う不都合な変化を防ぐ作用があるといえる。このため、エストロゲンは数あるアンチエイジング物質の中で大きな関心を集めているが、実際に寿命を延長させる、あるいは全身の老化を抑えるかという点に関しては、確証はない。
【エストロゲンは皮膚の若さを保つ】
皮膚にはエストロゲンの受容体が存在し、エストロゲンが作用する組織と考えられている。エストロゲンは皮膚の厚さ、弾力性などと関係する。なお皮膚の厚さとは皮膚のコラーゲン含量、ヒアルロン酸、水分量などによる。また、ヒアルロン酸は皮膚の水分の保持に必要な物質であり、エストロゲンはこれらを保持する作用がある。皮膚のコラーゲン含量が減少するといわゆる″しわ″ができるようになる。エストロゲンは皮膚のしわを防ぐことや厚みを増すということが、アンチエイジング作用があるといわれている所以のひとつである。また、最近の研究によると、大豆などに含まれる植物由来のエストゲンにも、しわが減るなどの皮膚の若さを保つ作用があることが認められている。
また、閉経後の女性では皮膚の傷が治るのに時間がかかるようになるが、エストロゲンを投与すると治癒が早まる。さらに高齢女性の場合では、皮膚の潰瘍の発生率が低くなる。なお、植物エストロゲンにも創傷治癒促進効果がある。一方、テストステロンは傷の治癒を遅らせる作用がある。
【エストロゲンが低下するとどうなるのか】
「生まれつきエストロゲンが作用しない場合」と、「ある時期からエストロゲンが欠落した場合」とでは異なるが、ここでは後者について述べる。
エストロゲンが急激に低下すると、最も早期に出現する症状は、のぼせ(ホットフラッシュ)や発汗である。エストロゲンは血管の拡張や収縮を調節する作用があるが、その調節機能が乱れたことによるものであり、血管運動神経の失調症状といえる。
エストロゲンが低下した状態が数年以上経過すると、腟や外陰部の萎縮が起こる。さらに腟内に細菌が繁殖しやすくなり、いわゆる萎縮性腟炎という状態になることがある。症状としては、おりものやかゆみなどである。
エストロゲンの低下は、血圧の上昇やコレステロールの上昇、特に悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロールが上昇をもたらすことがある。この状態が長期間続くと、動脈硬化、それに引き続いて狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの心血管系障害の危険性が高まる。ただし、心血管系に及ぼす影響は、必ずしも低エストロゲンのみに起因するものではなく、それ以外の種々の要因が関係する。
エストゲンの低下した状態が10~20年以上維持すると、骨のミネラル(カルシウム、リンなど)含量が低下する。骨のミネラル含量を骨密度、または骨量というが、この骨量が一定レベル以下になると骨は脆弱となり、些細な外力で骨折するようになる。この状態を骨粗鬆症という。
一般に、生殖年齢にある女性はエストロゲンが十分に分泌さえており、動脈硬化が原因であるある心筋梗塞などに罹ることは大変まれである。しかし、30~40代の女性でも、低エストロゲン状態が長期間続くとコレステロールが増加し、動脈硬化が通常より早期にみられるようになり、心血管系の疾患リスクが高まるといわれている。このようにエストロゲンは、低下して初めてその恩恵が自覚されることが多い。
0コメント