美しさのまとい方 エストロゲンと脂質代謝
【エストロゲンが皮下脂肪を増やす】
思春期前では、女児と男児では体型があまり違わない。ところが、思春期に第2次性徴を遂げると、女児は女性らしく、男児は男性らしい体型となる。体型を決定するのは、女性では主にエストロゲン、男性では男性ホルモンである。思春期を過ぎると脂肪の全身に占める比率は、女性で約25%、男性では13%程度である。このことから、エストロゲンは脂肪を蓄積する作用があることがうかがえる。思春期には初経を経験するが、一定量の脂肪の蓄積が初経の発来の前提となる。
既述のとおり、エストロゲンは、特に皮下の脂肪量を増加させるように働く。生殖年齢にある女性は、皮下脂肪が多い。皮下脂肪がたまりやすい部分はおしり、腰まわり、太ももなどである。つまり、健康な女性の脂肪の体内分布である。一方、閉経以後になるとエストロゲンは低下しウエストの周囲に脂肪がたまりやすくなる。皮下にある脂肪は長期間蓄えておくものであり、必要に応じてエネルギーとして利用できる。エストロゲンが十分存在している女性、すなわち、月経が規則的に発来している女性では、閉経後の女性に比べ脂肪の酸化による分解が低下している。このことがエストロゲンによる皮下の脂肪の蓄積の機序の1つと考えられる。
では、エストロゲンがあると皮下の脂肪がどんどん増えて肥満になるのだろうか。エストロゲンは食欲を抑える作用があり、皮下脂肪は一定となるように維持されている。
【エストロゲンと皮下脂肪が生殖機能を高める】
思春期が始まると皮下に脂肪が蓄積し始め、一定量たまると初経が起こる。つまり、皮下脂肪の蓄積が卵巣の働きを刺激し、逆に、卵巣から出るエストロゲンが脂肪の蓄積を促すということになる。エストロゲンと脂肪組織は、お互いに連絡を取り合っているのである。
脂肪細胞からレプチンというホルモンが分泌され、脳の視床下部にある食欲中枢に作用して食欲を調節する。またレプチンの分泌量は脂肪の総量と比例する。すなわち、脂肪の総量が増すとレプチンの分泌量は高まり食欲を抑える。逆に摂取量が減って、体重が減り脂肪細胞も減少すると、レプチン分泌が低下し食欲が亢進する。
レプチンはさらに脳内の視床下部に作用し、生殖機能を高めるホルモンであるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌を促す。GnRHは下垂体に作用して、卵巣機能を刺激するホルモンであるゴナドトロピンの産生分泌を促し、その結果、卵巣が働き出し、エストロゲンが作られるようになる。逆にレプチンが少ないと、GnRHは十分に分泌されず、エストロゲンも作られない。
【エストロゲンが内臓脂肪の蓄積を防ぐ】
エストロゲンが十分にある場合の皮下脂肪の蓄積とは、健康的な若い女性の体型であり、妊娠を続けていくのに必要な脂肪である。一方、エストロゲンが欠乏すると、一般に体重が増加する。この場合は、主として内臓脂肪が増えることが関係している。
内臓脂肪とは、腸を固定し腸を正しい位置に保っている腸管膜という組織などに脂肪が蓄積したものである。閉経後の女性では脂肪の分布が変化し、腰まわりに脂肪が蓄積し内臓の周囲の脂肪量が増す傾向がある。つまり、エストロゲンの濃度と内臓脂肪量は、反比例することになる。
内臓脂肪の蓄積はメタボリックシンドロームの診断基準の1つとなっている。内臓に脂肪がたまると、糖尿病、高血圧、高脂血症、心臓病、脳卒中などのリスクが高まる。
一般に男性では、年齢と関係なく一定の頻度で肥満がみられる。一方、女性は閉経前では男性と比較し肥満の頻度が低く、50歳以降で肥満になる例が増えている。このような肥満頻度の男女差は、エストロゲンの作用が関係しているのであろう。
男性では皮下脂肪が少なく、相対的に内臓脂肪が多い。内臓脂肪は身体を動かすと速やかに利用されるものであり、身体を動かすことが多い男性にとっては都合がよい脂肪である。
0コメント