美しさのまとい方 エストロゲンと精神・神経疾患

【女性のうつとエストロゲン】

女性は男性と比較して、ストレスが関連する不安やうつ状態になりやすく、うつ病のリスクはおよそ男性の2倍である。また、うつ病の生涯罹患率は明らかに女性のほうが高い。特に生殖年齢にある女性でうつ病が多く、思春期前の男女では発症に差がない。月経の前、産後、閉経後などは、エストロゲンが低下しつつある時期となり、うつを発症しやすい。特に女性の自殺企図は、月経期に多いことが知られている。

婦人科疾患の治療の目的で、一時的にエストロゲン分泌を抑制する薬剤がある。この薬剤により一過性のうつとなるが、投与中止により改善することがよく知られている。これらの事実から、女性におけるうつには、エストロゲンがなんらかの関わりをもっていると考えられている。

閉経の前後にみられるうつ状態は、広い意味で更年期症状ととらえてもよい。更年期症状にはさまざまあり、のぼせ、不眠、腰痛などの結果として2次的にうつ状態となることがある。逆に、閉経期のうつはエストロゲンの低下が背景にあることから、同時にのぼせ、発汗などのいわゆる更年期症状を伴っていることが多い。月経周期の後半の3~10日間にイライラ、憂うつ、不安、易怒性などで悩む月経前症候群や、分娩後のうつなどを経験している女性は、閉経期にうつを訴えることが多い。体質的に、エストロゲンの変動に対する感受性が強いのであろう。

エストロゲンには、不安を和らげる作用(抗不安作用)があり、そのため、エストロゲンが低下するとうつ状態になりやすくなるものと考えられる。エストロゲンには、受容体が2種類知られており(αとβ)、エストロゲンが受容体βに作用すると、抗不安作用を発揮するようだ。

また、強いストレスはしばしばうつ病の誘因となる。ストレスにより副腎皮質由来のホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌される。コルチゾールは、ストレスに適応するためのホルモンであるが、一方では不安感を高める。エストロゲンには、コルチゾールによる不安感をある程度抑える作用があることが動物実験で確認されている。


【アルツハイマー病とエストロゲン】

認知症とは、後天的に認知機能が低下して、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態である。特に、高齢化社会を迎え増加の一途にある。わが国では65歳以上の約1割が認知症である。

認知症の原因はさまざまであるが、アルツハイマー病によるものは40~60%を占める。これまで多くの研究がアルツハイマー病とエストロゲンとの関連を示唆している。アルツハイマー病は50歳までは発症率に男女差はないが、女性の場合、閉経を迎える50歳以降に急に多くなる。一方、男性ではこの傾向はみられず、50歳を過ぎるころからは、むしろ、エストロゲン濃度は高くなる。女性のアルツハイマー病の罹患率が男性の約2倍なのは、おそらく、女性が男性よりも早期にエストロゲン分泌が低下することも関係しているのだろう。さらに、閉経後のアルツハイマー病の女性では、正常な女性に比べて、血中のエストロゲン濃度が低下しているという結果がある。

現在のところ、アルツハイマー病の女性に対し、エストロゲンが有効なのかということに関して、肯定的なものと効果がないという報告がある。しかしながら、最近の研究の積み重ねによって、エストロゲン投与のタイミングが重要であるという結論に傾いているようだ。すなわち、閉経後5年以内にエストロゲンの補充を10年以上行うと、アルツハイマー病のリスクは30~40%低下することが認められた。これとは別に、あまり進行していないアルツハイマー病の女性に対して、卵巣が作る自然のエストロゲンであるエストラジオールの貼付薬を用いると、症状の改善がみられたという報告がされている。しかも、エストロゲンの血中濃度と改善度とは相関している。この研究は、女性の体内に存在する最も強力なエストロゲンを使用したという点でユニークであるが、長期的な効果に関しては、今後の検討が待たれる。

以上の研究結果から、予防または進行を遅らせるということに関してはある程度期待がもてそうだ。ここで注意しておきたいこととして、閉経後10年以上経過し、高血圧や高コレステロール血症などがあり、動脈硬化が進行している女性にエストロゲンを投与すると、むしろ脳卒中などを助長するおそれがあり、2次的に認知症を増やすこともありうる。60歳過ぎてからアルツハイマー予防目的で、ホルモン補充療法を新たに開始することは勧められない。


【エストロゲンの低下は脳にいかなる影響を及ぼすのか】

脳は身体全体のエネルギーの約20%を消費しており、重量当たりにして最もエネルギーを利用する臓器である。アルツハイマー病患者ではその発症に先立って脳内のエネルギーの産生が低下している。

細胞が利用するエネルギーはミトコンドリアという細胞内にある小器官が産生している。マウスでは加齢による卵巣機能の低下、あるいは去勢などによりエストロゲンが低下するとミトコンドリアの機能が障害され、その結果エネルギー産生効率が低下する。またアルツハイマー病の脳内ではアミロイドβというたんぱく質が蓄積しており、これがアルツハイマーの病態と深く関係していると考えられている。マウスを低エストロゲン状態にすると、脳内でのエネルギー産生が低下するとともにアミロイドβも蓄積している。このことから、低エストロゲン状態による脳へのエネルギーの供給不足がアルツハイマー病の誘因となる可能性がある。

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