変身したい

最近私の“顔”は大層忙しい。美容ライターの方と仲良くなったところ、最新の情報がもたらされるようになった。この他にも「今度、絶対に小顔にしてくれる鍼の先生のところへ連れていってあげる」などという人が何人もいる。


そして私を非常に喜ばすのが、試供品を山のようにいただく。

「好きなものを持って帰っていいわよ」と美容ライターの彼女はビニールの袋を私に渡してくれた。憧れのメーカーの化粧品が目の前にどっさりとある。こういうことに慣れていない私は、自分を抑えることができない。さっそく袋に化粧品を詰めにかかったのである。次第に本気になっていく私。

傍にいた友人から「スーパーの入れ放題袋詰めに挑戦する、ご婦人の顔になっている」とからかわれた。


私は皆さまからの厚意をしみじみと感じながら、いただいた化粧品をたっぷりと肌になすりつける。ところが、こうしたイジ汚さがたたったのか、顔が赤くなってしまったのだ。それは日に日に深刻さを加えていく。私は想像力というのが、自分でもそら怖ろしくなるほど強い。よって恐怖におびえる。

「このまま美貌が戻らなかったらどうしよう」とつぶやいたら、母にせせら笑われた。そんなもの、いったいどこにあったんだと言うのだ。


美容ライターの彼女の話によると、肌に塗り始めてから数日ほどは、肌が荒れるらしい。

けなげな私は頑張った。手のひらにクリームをつけ、肌に押しあて、こうしながら私は「美人になあれ、美人になあれ」と心の中でつぶやいているのである。するとどうだろう。おとといあたりから、私の肌は急変した。信じられないぐらい肌理が細かくなり、艶をもち始めたのである。嬉しい、、、。私は涙にむせんだ。


「その化粧品やめたらどうですか。ひどいことになってますよ」と言った知人たちは「紹介してください。お願い」に変わった。

頭を下げられると、おせっかいの私としてはほっておけない。プレゼントを贈り、講習会を開きいろいろアドバイスもする。


“キレイ”のネジがさらにまわり始める。なんと、プロのアーティストの方にメイクをしてもらうことになったのだ。

概して私はメイクのうまい女性が好きだ。無意味な厚化粧や、無化粧自然派女は、ちょっと友人に持ちたくないけれど、メイクのきまった女性というのは、ヘアやファッションのセンスもいい。メイクがうまい女性はそれだけで自分を知っているということだ。

自由業をしている女性たちのモード系のメイクも好きだし、外資系企業のエリート女性の理知的なメイクも私はいいなあと思う。自分の個性というものがとってもわかっている人たちではないだろうか。


百人の女性に質問して、ずんぐりむっくりの美人と、モデル体型のおジミ顔とどっちを選ぶかといったら、たいていのおしゃれに自信のある女性だったら、後者の方を選ぶだろう。だってその方がずっと得だということを知っているからだ。自分の顔をパーツと考え、それに手を加える。そこから創造性というものを見せる、というのは“いま”なんだ。

女性にとって何ていい時代が訪れてくれたんだろう。


私は声を大にして言いたいのは、女性は生まれながらにして非常に芝居っ気を持っているものなのだということだ。人に良く見られたい、目立ちたい、変身したいという気持ちは誰にでもある。なにも嘘をつけということではない。しかし「こうありたい女性」というのを自分で演出し、それを楽しむというのは女性だったら簡単にできることだ。

その芝居っ気を上手に引き出していけば、かなりいい意味でしたたかな、賢い女性になれるというのが私の信念である。


首から下はというと、トレーニングの先生がバカンスで海外へ行ってレッスンをお休みしているから、私の体重はぴんとはね上がった(すぐ人のせいにする)

そんな折、ダイエットの友が食欲を抑えるクスリを分けてくれたのだ。

「空腹時に二錠飲む。そうしたらもう、食べる気失うよ。本当にすごいよ」


なんでも女優さんやタレントさんがみんな飲んでいるものらしい。私は美女が飲んでいるという言葉にとても弱い。大喜びで夜に飲んだ。お風呂に入り、ベッドに入る。いつもだったら、ものの三分もたたないうちに眠りの世界へ入っていくのであるが、まるで目がさえて眠れない。どんなことをしても眠れない。結局まんじりともせず朝陽を迎えてしまったのは、メイク本番当日のこと。


寝不足なんだから、体力をつけなくてはという名目のため、朝食にたっぷりご飯を二杯食べる。どうやら薬の効用は、私の場合、食欲を刺激されず、睡眠欲の方へと働きかけたようなのである。



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