美女オーラに打たれた夜

Bさんは知的な雰囲気を持った、女優さんにもちょっといない美貌の持ち主である。

「はじめまして」はきはきと挨拶をする彼女はとても感じがよかったが、今まで抱いていたイメージと実物とのギャップに、私はびっくりしたものだ。半開きになった唇からは、ふつうではないもの漂ってきて、かなりあぶない印象を持った。それが非常な色気をかもし出していたからだ。開き加減の唇は“魔性の女”特性だと私は知っている。


Bさんは間違いなく魔性系であるが、私は単なるムチムチ系の血糖値高い系。

Aちゃんは信じられないぐらい小さな顔の中に、大きな瞳と小さな唇がおさまるところにおさまっている美少女。まるで人形ケースから抜け出してきたみたいなドール系だ。

本来なら今夜は素敵な美女たちで構成される会であるが、今回は私のようなキワモノが混じり本当に申しわけないことである。


予約したお店がわかりづらいので、お店の近くで待ち合わせをする。あんな美しい女性を一人都心の交差点に立たせるわけにはいかない。ワーッという感じで男性が寄ってくるだろう。そんなわけで、十五分も前に行き、ずうっと待っていた私。


「恵美子さーん、遅くなってごめんなさい」

タクシーから降りてきたBさんは顔を隠すために、帽子を深くかぶっていた。そこから見える顎の線が普通の女性はとうてい望むべくもない。唇の形も工芸品のような完璧さである。お、と目を引き、中の顔を見たくてたまらなくなってしまう。私はすぐに敗北を悟った。百メートル競走で五十メートル離されているどころか、私は見物の方にまわります。


Bさんは帽子を脱ぐ。黒ダイヤのような瞳とは本当にあるのだと、私は息を呑んだ。まっすぐ向くと、目はキラキラ光ってきて、相手の心をつき刺すようになる。これは女優の目だ。スクリーンというとてつもなく大きなものの中で、目がどれだけ強くどれだけ光り、大輪の花となる。スクリーンでBさんの目を見た人はきっと忘れないことであろう。


今夜のBさんは黒のノースリーブにティアードスカート。赤い靴底のハイヒールもよくお似合いだ。ティアードスカートって魔性の女の制服ではなかろうか。少女っぽい雰囲気と艶っぽい雰囲気が、いい感じに混ざり合っているし、数段に重なり合うフリルが、男の人を絡めるようなものがある。


映画やドラマにお出になり、世の人たちの感嘆の的になっているBさんであるが、二十センチ近くで見る。本物はもっともっと美しい。空気の色がそこだけ変わっているようだ。Bさんは単に長身なのではない。トップスのすぐ下からまっすぐな脚が伸びている。脚と同じように手も長く、それをもてあますように、時々両手を体の前で組む。すると彼女全体のシルエットが少し変わって見えて、いつのまにか彼女から目を離すことができなくなる。


そこにいた人々も、いつのまにか大輪の花に視線を送っている。美女が珍しくないこの場所で、みながこれほど不躾に人を見ることなどめったにない。華のある人ってこういう人のことを言うのだとつくづく思った。


“華”の根源にあるものは、緊張感ではなかろうか。「見る人」「見られる人」がつくり出すぴりぴりするような緊張感、あれが“華”という地震を発生させる。そう、人々の視線が、この賞賛が、話題と人気を独占する華のある女性へと変えてくれるのである。


今夜のBさんは光り輝くようであった。強い人間に宿る光り、明るく前向きの人と言った方がいいかもしれぬ。“美しい”とか“カッコいい”という形容詞が自然に私の喉から湧き上がる。

「努力しているのよ」眉ひとつ動かさずBさんはお答えになったが、その顔がまたキレイなの。端整なのだ。


美人にオープンな人はいない。喋りすぎ、情報公開しすぎはそれだけで美から遠ざける。が、心が広くやさしいBさんは美の秘密を聞かせてくれた。なんでも、お花の香りのアロマを焚いて、ペットのワンちゃんと一緒に眠るらしい。お花と動物に囲まれて眠るなんて、本当に白雪姫みたいよね。一生この人についていこうと思った。


そしてその時、私はわかったのである。大きな真実をだ。よく女性は、他人から見られると美しくなると言われる。皆の言うところの「キラキラオーラ」であるが、私は今、このオーラの出どころをやっと解明した。オーラは実は自覚症状なのである。人に見られる自覚と、そのためにキレイにならなくてはならないという義務感だ。


続きあります。


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