恐るべし“女子アナ力”

私は一流のホステスさんとか芸者さんという“女性のプロフェッショナル”を本当に尊敬し、かつ憧れている。本当の美女というのはこういう人を言うんだろうなあと思う。私がもし男性だったら、どんな大金を遣ってもいい、こんな美しい女性の歓心を呼ぶことができたら、と思うに違いない。


女性アナウンサーの中にも、“女性のプロフェッショナル”と呼びたいような人がいる。顔かたちから、心構えが普通の女性とはまるで違うのだ。厳しい訓練にも耐え、どんな人との会話にも合わせられるように頭も磨いておく。しかもいろいろな方向から飛んでくる人の視線に鍛え抜かれ、洗い流されたという感じ。それはとりもなおさず洗練されている、ということなのだろう。


私の知り合いで世にも希な美女がいる。肌の美しさといい、ぬれぬれとした黒目がちの瞳といい、完璧といっていいほどの顔だ。どうして芸能界に入らなかったのかと不思議なのだが、彼女は女子アナというコースをたどった。

バリキャリであるから見繕いもばっちり。といっても、彼女はセンスがいいので、ブランドやジュエリーで飾り立てたりせず、ミニマリズムのファッションをさらりと着こなし、またそれが様になるからすごい。


こんな美人ならどんなに性格が悪くても許すけど、なんとAさんというのは、とってもいい人であった。謙虚で話は面白いし、細やかな気配り上手。人の噂話なんか絶対にしない。外見だけでなく、中身からも凛然さが匂う。

そうよ、うらやましいなんていう感情は、あるレベルに対して起こるもので、これだけかけ離れた存在に対しては、もうもう賛美するばかり。


彼女を見ていると、仕事を持っている、それが成功しているって何ていいんだろうとつくづく思う。私は断言してもいい。成功した人で暗い人は誰もいない。夢がかなえられずにくすんでいるときも、明るくユーモアを忘れない人に運はやってくる。頑張るけれど、恋も忘れず、付き合いもよく、そして楽しく暮らす。夢みながら生きる時期は案外長いのだ。


おばさんの(私のことね)まあ、たらたらと喋ることといったらない。まるで論理性がなく自分勝手。同じことを何度も繰り返す。

それを目を見開いて、一生懸命に聞いてくれるAさん。よく、口角をキュッと上げて「ハイ、ハイ」と小首をかしげてこちらの話を聞く女性がいるが、それとはまるで違う。本当に心を込めて、こちらの言葉を聞きとろうとする様子は、こちらの胸を打つ。


Aさんはこうアドバイスをしてくれた。私は質問に対して、すぐ答えようとする。相手の語尾が消えないうちに、それにかぶさって声が発せられるのは、怒っているようで感じがよくないそうだ。

「必ずひと呼吸置くの。質問が終ったら、大きく頷く。そしてにっこりする。あなたのおっしゃること、楽しくたまらないわ、という風ににっこり笑い続けるの」

これって普段の生活にも使えるんじゃないかしら。私は、なるほどとひたすら感心してしまう。


私はあることに気づく。惜しまれつつ、テレビ局を退職した後もフリーとして活躍し、雑誌の表紙を飾ったり、ドラマで女優デビューを果たす人気アナウンサーは、みな母性を醸しだしている。母親を思わせる聞き役に徹して、一緒にいると安らぐ。ゆっくりとあったかい気分になるのだ。

しかも聞くだけではなく、知性ある大人の女性として「あなたの言うことはわかるわ。でも〇〇さんはどう考えているのか、もうちょっと冷静になってみない」とひと言つけ加えることもできなくてはいけない。相手の心をすくい上げるのがバツグンに上手いのだ。


「私、あなたのことを慰め、あるいは励まし続けます」

そういう無言の電波が出せるからこそ、不特定多数の人々から好意をもたれるのである。こういう女性と関わりを持ちたくないと思う日本人は、この国にひとりもいないはずだ。


「恵美子さん、この頃キレイになりましたね」

多忙を極めるAさんであるが、それでも私のことを気にかけてくれていたのだ。こういう気遣いも非常に如才なく、私はすっかりまいってしまったのである。お世辞だとわかっているが、嬉しいではないか。そしてすべてのことを自分の都合のいいように解釈するのは私の本質だ。


「よし、私も頑張る。Aさんに負けないような愛される美人になる」と私は強く誓ったのである。

が、待ったをかけたのが、わが男友だち。

「『負けない』っていうのは、図々しいんじゃないの」

彼はこのあいだ私が「目指せ、深キョンボディ」と言ったときも、同じように注意した。

「目指せ、って言ったってさあ、君の場合、まるっきりレベルも進む路線も違うんだからさあ」

「じゃあ、何て言えばいいのよ。目標にする、って言えばいいの」

「目標っていうのもどうもねえ。とにかく全く違う次元の話なんだからさ」

可哀想な私の向上心。いつもこうやってつぶれてしまうのね。

Botanical Muse

貴方だけの綺麗のたしなみを身につけ、美的なものを楽しむことを知っている人になりましょう。

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