美しさのまとい方 ストレスの男女差

【ストレス反応の性差】

ストレスによる副腎皮質ホルモン分泌への影響は、男性と比較して女性の方がより強い影響を受ける。ストレスを感じている女性は、男性よりも頭痛、背部痛、肩こり、胃の痛みなどの身体的症状、またはイライラ、怒りやすい、泣きたくなるといった感情的な訴えが目立つ。

また女性ではストレスにより、にきびができやすくなる。ストレスにより分泌が高まったコルチゾール(副腎皮質から分泌されるホルモンの一つ)が卵巣機能に影響し、エストロゲンと男性ホルモンのバランスが乱れることで皮脂腺の分泌が活発となり、にきびができる。


一方、ストレスを感じている男性は、女性よりも身体的な症状は少ないが、いきなり強いうつ状態などの精神症状が現れることがよくある。男性の方が瞬時に全身の力を発揮し、しかも生死にかかわるような状況に置かれることが多く、ストレスに反応して短時間で分泌されるコルチゾールは女性より多い。コルチゾールの分泌過多は脳の情動を司る部位(海馬)を萎縮させて、その結果不安やうつ状態がもたらされる。



【ストレスの原因の性差】

ストレスの原因(ストレッサー)は、男女で異なる傾向がある。男性にとってのストレスは仕事の遂行能力、職務上の責任の大きさ、収入などが主なものである。

他方、女性は仕事に直接関係するものもあるが、職場での対人関係、家庭の事情、全体の生活が快適であるか否かということがストレスの程度を左右する。つまり、男性にとってのストレスは仕事に直結しているが、女性は仕事のみならず自身の精神面や家庭の生活全体の状況いかんがストレスを規定している。

女性の方がストレスと感じている日数が多いが、その理由は特定のストレスがいつまでも持続しているのではなく、ストレッサーの種類が多いということである。


ストレスの対処法にも男女差がある。女性は努めて人と接触する、食べるいったことでストレスを軽減させることになる。一方、男性はストレスがあっても特に何もしない、または、スポーツなどによってストレスに対処しようとするが、友人や同僚などに相談してストレスを解消しようという行動は女性よりは少ない。おそらく他人とのコミュニケーションがストレス解消にならないという、男女間での脳の生物学的相違によるものであろう。


【男性のストレスと生殖機能】

ストレスに対して生殖能力を低下させるのは女性ばかりではない。ヒトの実験では四十八時間絶食させると、血中のLH(脳下垂体由来のホルモンで卵巣に作用して男性ホルモンの分泌を促す)の濃度が低下し、その結果、精巣から分泌される男性ホルモン(テストステロン)の濃度が低下することが示されている。

学校の試験のストレスによって男子学生のテストステロンが低下し、本格的なスポーツ選手でもテストステロンの低下が見られることがある。また、騒音や都会における長時間の車の運転で生殖機能が低下するという調査結果がある。このように男性の生殖機能においても女性と同様、ストレスに対し鋭敏な反応をしていることは疑いの余地がない。


古くから男性は強靭な肉体と精神を有することを期待され、さまざまな困難に対し、弱音を吐かないことが美徳とされてきた。しかし、男性の生殖機能は見た目にはわからないが意外とすぐに弱音を吐いてしまうようだ。昨今の不妊治療の現場においても男性側に原因がある不妊カップルは半数近くに達している。


ストレスによるうつ状態とテストステロンの低下は相互に関連している。うつ状態や不安傾向が強い男性ではテストステロン値が低下している。また、テストステロン値が低いとその結果、うつ状態に陥りやすいということがいわれている。


ストレスが実際に男性の生殖能にいかなる影響を及ぼすかを調べた研究がある。一九九五年の阪神淡路大震災後の一ヶ月以内で、すでに精子の運動率の低下が見られている。この回復には二~九ヵ月を要していた。

甚大な自然災害、戦争などのストレスを経験した社会では出生率の減少も当然ながら、不思議なことに男児/女児の比率が低下することが知られている。出生した新生児の性比を見ると、大きなストレス前と比較し明らかに男児の出生数が減少していた。出生児の性を決定するのは精子であり、ある地域、国を襲った突発的で不幸な出来事による精子の異常が男児の減少に関係している可能性がある。


ここで強調したいことは、ストレスによる生殖機能への悪影響は、従来ストレスによるとみなされていた自覚される心身の変化ではなく、一見ストレスによるものとは気づかれない身体的変化であることが多い。生殖機能は真っ先にストレスの標的となりうる、もっとも脆弱かつ精緻な調整系のもとに維持されている機能系といえよう。


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