悪女の尊み

悪女…。なんと美しい響きを持つ言葉であろうか。口に出してこそ言わないが、女性たちは不倫願望と同じぐらい、悪女願望を抱いているのだ。男性の心を手玉にとる、驕慢で魅力的な女性。そんなふうに自分がなったとしても、それはそれでいいと思っている。


私の周りでいちばん美しく艶やかな悪女といえばこの人、Aちゃんである。さまざまな恋の遍歴を重ね、今も噂がたえない。キラキラ光っているうなじが、たまらなく色っぽい。話すときは体を斜めにする。そしてうなじをこちらに向け、上目づかいにするのだ。女性の私でもぞくぞくっとしたのだから、男の人だったら「ひょっとしたらひょっとして…」と妄想は果てしなく続くのであろう。


悪女の第一の特徴は、白くやわらかい印象があることだ。無意識にもっていたり、無防備なものがものすごい魅力を放つことがある。お肉もそのひとつだ。もちろんデブは嫌われるが、たいていの男の人というのは、むっちりとした太ももや、ぽっちゃりとした二の腕が大好きだ。本人が意識していない分だけ、お肉というのは、女性の“隙”の部分であり、無邪気な愛らしさでもある。


Aちゃんは二股をかけていた男性の家へ乗り込んでいって、家財道具をむちゃくちゃにしたという冒険譚がある。が、不思議なことに男性の方はAちゃんのその情熱にさらに魅かれ、二人はその後、同棲した。Aちゃんと暮らした歳月、彼は奉仕し彼女をミューズと讃えているのである。


そんなことをしちゃいけない。世の中にはフリーの男性がうろうろしているんだから、その中から見つけなさい、なんていうことを私はもちろん言わない。「恋多き女性」とか「悪女」と呼ばれる人の大きな特徴として、自分の激情のままに行動してしまうことが挙げられる。自分の欲望に忠実といおうか、天真爛漫といおうか、極めて感覚的な女性なのだ。


Aちゃんはこう言う「あまり先のことは考えたくないわ」

これだ!と私は叫んだ。

先を見てしまう女性。今しか見ない女性。他の女の人と一緒に住む家へ乗り込んでいく女性は、後者の方であろう。そしてどちらが幸福になるかというと、当然後者のほうだ。


前者の女性は、あまり男性に好かれない。なんとなれば、パッションを小出しにできないからである。先が見える、ということは刹那的にもなれるということだ。この男性とはどうせ別れることになる。だったら、うんと楽しんじゃおう。いっぱい愛情をそそいじゃおう。甘えてイチャイチャしようとする思想は、男性に鬱陶しがられる。


パッと恋をして、パッと散ろうとする考え方は男性的なようでいて、表現は女性的である。つまり、その最中はねっとりということになるわけで、たいていの男性はこういうのが苦手だ。かくして女性の望むとおり、恋はすぐ終わってしまう。


反対に、こういう状態がいつまでも続くと信じていないまでも、あまり先のことは考えたくないわという女性は、心に余裕が出てくる。この男性とどうにかなっても、すぐ次の男性が現れるだろうと明るく予感できる。だから男性に対して、あまり情をそそがない。すると男性はますますつくしてくれる。執着心を燃やす。まわりをみているとよおくわかる。現代は少々薄情な女性の方が、ずっと男性にモテるのだ。


男性は女性よりもずっとロマンチストである。自分にだけわかる女性の美点というものも好きだし、庇護者としての喜びもある。悪女にハマって堕ちていく自分…というのにも快感があるのだ。私は男性ではないが、こういうときの男性の心理はなぜかわかる。

私たちは恋愛を呼吸をするようなごく当たり前のことと思っているが、駆け引きなどというものはまるでない、ちょっとわがままで手ごたえのある女性と相思相愛になるということは、宝くじにあたったようなものであろう。


Aちゃんに尋ねた「こんなに魅力的でセクシーだと、男の人と別れるとき大変なんじゃない」

「えぇ、首をしめられたことあるわ」

私は感動した。究極の悪女というのは、男性を犯罪に向かわせるものだったのである。


今、ストーカー行為が問題になっているけれども、以前付き合っていた男性に、いつまでもつきまとわれるというのは本当に困る。私の友人の中には「今からナイフをもって、お前のところへ行くから」と電話で脅かされたコもいる。殴られた揚げ句、難聴になったコもいた。


私は思う。モテモテでうんと遊んでいる男性とつき合う分には、別れるときにも簡単であろう。あっさりとキレイにバイバイできるであろう。が、男性の誠実さを味わうことはできない。男性のまごころを楽しむのと、恐怖を味わうのとは、実は表裏一体のものである。


女性というのは、劇的なものを欲しがる反面、男性を自分の都合のいいように操りたいと思う気持ちがあるから始末に困る。自分が別れて欲しいときは、あっさりとキレイに別れてくれなくては困ると思うものの、それだとやはり物足りない。


雨の夜、ずぶ濡れになった男の人が自分の家の前で待っているというシチュエーションを、夢見ない女性がいるであろうか。ドラマの中のあのシーンみたいに「オレはやっぱりオマエが必要なんだよ!」と言われてみたい。

「もうそろそろやめにしよう」と持ちだしたとたん、相手も“待ってました”と言わんばかりに「そうだね」と言われる屈辱と悲しみ。あれに比べれば、多少つきまとわれた方がいいかも。


殴られても必ずモトはとれるというのは私の持論だ。別れ話がもつれて、男性に殴られた女性というのは、やはり畏怖の念で見られるからである。お馬鹿な女性と思われることもあるが、そんなにいい女だったのか、とまわりの人から興味を持たれることは間違いない。


プレイボーイの評判の高い男の人ほど、女の人が群がっていく。あれと同じで色事のトラブルが絶えない女の人というのは、それこそ甘いにおいのする強い光線が発生していく。やたらモテていくのである。殴られた後の女性はやたらなまめかしく艶っぽい。殴打の跡は“女の勲章”なのである。


周りの女性たちが油断ならないと感じながらも「あれだけキレイで、あれだけ目立っていてスゴい」とAちゃんを認め始めている。いま時代ははっきりと悪女の時代へと向かっているのではなかろうか。とにかく今日はAちゃんのことばっかり考えていた。やっぱり悪女ってすごく楽しそう。





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