紫色の時間

やっとのことで‟痩せるネジ”がまわり始めた。そう、ちゃんとダイエットをする、体重が減る、嬉しい、頑張る、という回路が私の中にできたのだ。私はどんどん痩せ、皆から心配された。このまま人格が根本的に変わって、痩せた暗い性格の女性になるんだわ。本気で悩んだが、それもいいような気がしてきた。痩せて陰キャラのオンナって、いっぺんやってみたかったしな。


さて、ダイエットが軌道に乗り小顔になった(ような気がする)私は、このごろ時間をかけてコスメ売場を歩くことが多い。売場の品々をじっくり見るのは結構楽しい。改めて言うまでもないが、ファッションブランドの化粧品というのは流行の服に合う色味のものがそろっている。今年の秋こそはスタイリッシュな女性になりたいと願う私。ドルチェ&ガッバーナ、トム フォード、イヴ サンローラン、アルマーニといったブランドでいろいろお買物をした。デパートコスメは、持っているだけで嬉しいものだ。


デパートの化粧品売り場に立つと、世の中の流れがよくわかるし、女の人がどういうものを望んでいるのかも何とはなしにわかる。

それにしても、最近の女性のメイクのうまさといったらどうであろう。特に感心するのは、アイシャドウの入れ方で、グラデーションした瞼の上に偏光パールを散りばめているのは、めちゃくちゃ可愛くて素敵。マスカラをたっぷりつけるのも美女の特権だ。


「女性は清楚な人がいい」という男の人も少なからずいるだろうが、今の女性はもうそんなのに構っちゃいない。自分のことが楽しくてたまらないから、クリエイティブな要素があるから、どんどん化粧をする。

そしてこうした女性がモテるのは確かだ。あなたもさんざん見聞きしているだろう。いろんな人に聞いてみるがいい。心がやさしいんだけど地味な女性と、華やかな美人でわがままな女性とどちらがいいかと。もう人生にかなり疲れている男性ならいざしらず、私たちのターゲットとなるような、イキのいい男性は絶対に後者をとる。ちょっと手ごたえのある女性のほうがいいと答えるはずだ。


私の知っているAちゃんはものすごい美人である。背がすらりと高くて目を見張るようなスタイルだ。一流企業に受かるぐらいだから、志が高い。

このAちゃんは、頭がものすごくいいため、自分の立ち位置をちゃんと考えていた。お局さまの視線を逃れるためもあったろうが、髪をひっつめ、ほとんど化粧をせず黒いパンツスーツに身を包んでいた。できる限り地味な格好をしているのであるが、そうすると百七十二センチの長身や、ふつうじゃない目鼻立ちがますます目立ち、社内でも「あの人誰?」と評判であった。


ところがつい先日、ある集まりで久しぶりに会ってびっくりしてしまった。ひっつめ髪は、グレージュに染めてボブにしている。流行のメイクもばっちりで、目にしみるようなブルーのパンツに透けるブラウスもきまっている。高いヒールで歩くときの脚のさばき方はシロウトっぽくない。どう見ても高貴な美女で、‟その他大勢”から抜けた感があるのだ。


それを見てつくづく思った。ふつうのふりをすることない。ふつうの女性のふりするのは本当に疲れることだ。美人に生まれたのは仕方ないし、きっちり美人やられていただきますって感じがいさぎよく、なんともカッコいいのである。これからの女性はこうじゃなくっちゃね。


私は驚いた。Aちゃんのまわりにいつのまにか人だかりができているではないか。すごくえらい男の人なんか私が一度も見たことのないプライベートの名刺を渡していた。美人で損をする職業なんかこの世にあるのだろうか。私は知りたい。


しかもAちゃんはお育ちがとてもいいので、何といおうか、男性のあしらい方が実にうまいのである。若いのに場数をふんできたようだ。私はAちゃんに密かに「小悪魔」とあだ名をつけていた。

私がもし男性だったら、彼女にいっぱいお洋服をプレゼントする。愛人になってくれなくたっていい。こんなに綺麗な人をお店に連れていって、いろいろ買ってあげたらどんなに楽しかろう。とりあえず女性の私はお友だちになりたいなあ。

「Aちゃん、今度飲みに行こうよ」と誘ったら、「私、飲めないんです」と軽くかわされてしまった。そのなびかない様が絶妙で、女性でもぐらっときた。私はこのコは、将来どんな魅力的な女性になり、どんな悪さをしてくれるか楽しみにしている。


流行とか時代は、女性たちにこうささやいているような気がして仕方ない。

「あるがままの自分でいい。だけどそれを魅力的に見せた人が勝ちよ」

ここで頭のいい女性たちが、俄然有利になるのだ。頭のいい女性というのは、前向きに生きている女性のことで、それは仕事ばかりでなく美しさのサクセスにも及んでいる。

自分のプレゼンテーションをどの辺に置くか、外見を思うままに変えて、いろいろな選択をできるわけだ。仕事も女性としての幸せも諦めない欲張りな美人道をひたすら突っ走るか。うーんとおさえ気味にして、無難な人生を歩むか。メイクとファッションで、その都度できるわけである。


このごろ私が挑戦してみたいのは、紫の口紅。ハイセンスの人で、あれをこなしている人をみると本当に憧れてしまう。紫の口紅が似合うためには条件があり、まず真っ白な陶器のような肌を持っていること。鼻はすっきりと高く、インパクトのある目、そしてシャープな顎を持っていなくてはならない。そして唇は適当な厚みがあり、ふっくらとしていてひき締まっていること。そう、すべて私にあてはまらないのだ。


おしゃれな人は季節を先取りする。太陽が容赦なくじりじり照りつける八月のその日、Aちゃんは深い紫の熟したプラムのようなリップをひいていた。それとなく秋の気配を感じさせていたのだ。その知的で色っぽいことといったらない。私はAちゃんに‟知的で色っぽい”という、今モテる女性の原点を見たのである。


「紫のリップは、ひとつでもバランスが悪いものがあるとブスという印象を与えてしまいます」とAちゃんは言っていたと記憶している。

難易度Aのリップのときは、コーディネートもばっちり、他のアイテムもいつもの二倍ぐらい気をつかわなくてはいけない。

あんな美女でもむずかしい紫。実は私、先日のデパートでその新色買ってあるのだ。



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