平成のお嬢さま現れる

私は「森岡恵美子」から「森岡恵美雄」へと変貌しようとしている。 

先ぶれは10年ほど前からあったが、この頃、はっきりとした自覚症状がある。そう、オヤジ趣味となり、若くて可愛い女の子をうーんと可愛がっているのだ。

Aちゃんもその一人である。Aちゃんは顔がやたら小さく、目がものすごく大きい。普通の日本人はとうてい望むべくもない長いまつ毛、ツヤツヤの唇の下には信じられないぐらいコンパクトな顎という平成版ふわふわ系美女なのだ。まるで生きているフランス人形みたいだ。和顔の私がAちゃんみたいな洋顔を産もうと思ったら、これから三代にわたってかかるような気がする。


Aちゃんはとってもおしゃれで、正統派アイテムから冒険ものまで見事なまでに着こなす。小物に凝りに凝っている。うんと研究して眉を整え、ファンデーションを選び抜く。そしてリップラインも筆のテクニックで変えてしまう。いつも季節とトレンドを先取りしたメイクとファッションで私の前に現れ、会うたたびに景色が変わる。

この日待ち合わせをしたレストランに現れたAちゃんは、ナチュラルメイクでモード系の黒い服を纏い、実にカッコいい。いってみれば引き算の魅力である。本来ならば、明るい色の服を着て、髪や化粧も飾り立てるはずの若い子があえて黒の服の中に自分を閉じ込める潔さ。それだから斬新なデザインも映えるのだ。


しかし、このAちゃんが超毒舌で深窓のお嬢さまだと誰が知ろう。

「ねえ、これヘンかしら」とAちゃんにファッションチェックをしてもらうと「ヘンです」ときっぱり。お世辞を一切言わないがゆえに私のファッションアイコンとなっている。

「恵美子さん、その眉の描き方は今年までにしてくださいね。年をまたいでその眉は″イタい″です」この言葉は私の鼓膜を直撃した。

女を長くやっていて、つくづくわかったことがある。それは女性の顔にとって眉がいかに重要かをである。眉というのは、その人のフレキシビリティをはかるものなのである。どれだけ時代にのっていけるか、どれだけ流行をキャッチしていけるかがわかるモノサシだ。

失礼なことを十分承知で言うが、ひと昔前の寒々しい眉をした女性からみずみずしいメッセージは発信されない。


大人世代になると、同世代の世界はプレッシャーがなく、とにかくラクで居心地が良い現状に引きとめておこうとするやさしい誘惑に満ちている。

私は「環境と美貌」というタイトルでレポートしたいぐらいだ。つまりどういうことかというと、同世代の周りの言葉は全くあてにならないということである。

「とっても素敵よ」「似合ってる」などと、みんなその場で慰めを言い、ダサくなりかけた人をさらに悪い方向に持っていこうとする。そして当の本人は、自分に都合よく安心しようとする。これではいけない。どうしようもなくダサいオバさんが強固されるのはほぼ確実だ。

女性は齢を重ねるにつれ″客観性″というのが難しくなる。自我が強くなる一方だ。大人の女性で″イタいオバさん″と呼ばれる人が存在する所以は実はここにあるのではなかろうか。

こんなとき年下の世代は、大人の女性の自惚れをふっ飛ばしてくれる存在となる。答えは年下の世代から引き出される。若い子の目は驚くほど鋭く冷静で、イタい感に憑りつかれた大人の女性に決して寄りつかないのである。


「恵美子さん、Jさんを呼んでくださいよ」と唇をとがらせてアイドル顔でおねだりをするAちゃん。

Jとは元ジャニーズに所属していた正真正銘の美男子である。以前一度会わせたら「あんなイケメンな人、初めて見ました。かっこいいですね」と興奮して、すっかりJに憧れているようだ。

可愛い美女に甘い私は、すぐスマホにかじりつく。

そうしていると、お店の方が「うちのお店は美人大歓迎なんですよ。よろしかったらこちらどうぞ」と料理を一皿サービスしてくれた。仕方ない、この″事実″もJにしっかり伝えなければならない。

「もしもし、Aちゃんと二人で飲んでいるんだけど来ない。たった今ね、店員さんから口説かれちゃったわ(もうこういうことになっている)」と大声で言った。気分はもうモテ女だ。困ったもんである。

そしたら何ということであろうか、ちょうど近くで男友達と二人で飲んでいるので、こちらに来てくれるとのことであった。これをAちゃんに告げると本当に別人かと思うぐらい顔が生き生きしてきたのである。イケメンのチカラは計り知れない。


「恵美子さん、個室に移動しましょうよ。Jさんが来たら、また店中が騒ぎになりますよ」

芸能人というのはオフの時はオーラを消している。しかし、彼は現役の芸能人ではないのでオーラ制御装置が働かない。いつだってオーラ全開。目立つことと言ったらない。すれ違う人が振り返り、歓声をあげるほどだ。

私はお店の方を呼んで「今から男性が二人合流するので、ワインリストをいただけますか。それから一人は普通の人で、もう一人は国宝級のイケメンなので個室をお願いします」と伝えた。


昭和を生き抜いた和顔の私と平成を生きる洋顔のお嬢さまは個室に移動した。

「ねえ、少女時代に夢中になったジャニーズって誰?」

「嵐です。クラスのみんなが好きでした。恵美子さんは?」

「光GENJI!!」

「なんですか、それ」

などとペチャクチャとしゃべっていたのであるが、個室の扉が開いたと同時に、両人一瞬黙り込み、自然と立ち上がった。ものすごい美男子だったからである。Jではなく、もう一人の男性がだ。イケメンなんて言葉軽く思える、まるで映画俳優のような容貌なのだ。


この後続きあります。

Botanical Muse

貴方だけの綺麗のたしなみを身につけ、美的なものを楽しむことを知っている人になりましょう。

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