美しさのまとい方 エストロゲンと更年期
【更年期障害とは】
日本産婦人科学会の定義では、閉経の前後の各5年間を更年期とよぶ。
この間に現れる多様な症状のなかで、精神疾患、内科的疾患、整形外科的疾患などの症状としては説明できないものが更年期症状であり、日常生活に支障をきたす場合に更年期障害とみなす。更年期障害の背景には、エストロゲンの低下が深く関連しているが、加えて加齢に伴う身体的変化、家庭環境、心理的要因、固有の性格などが複合的に絡み合っている。また、更年期症状の程度や発現率には人種差、民族差があるが、生物学的な差によるものか、あるいは、更年期の受け止め方や女性の不快感の表出の仕方が文化や伝統によって異なるのかは定かではない。
エストロゲンが急激に低下するのは閉経以降であるが、閉経数年前からエストロゲン分泌は徐々に低下する。そのため、閉経前から更年期症状がみられることがある。エスロトゲンがあるレベル以下になると、更年期症状を発症するわけではなく、エストロゲンが低下しつつある時期、または大きく変動していることが更年期症状の誘因となる。
よく40歳前後の女性で心身の不調を訴えると、更年期症状ではないかと心配する向きもある。しかし、45歳未満で月経を規則的に経験している女性で更年期症状が起きることまずないといえる。
更年期症状のなかで、エストロゲンの低下に直接関連している症状は、のぼせ(ホットフラッシュ)、発汗などである。特にのぼせは最も特徴的な症状であり、40~85%の女性が経験する。不眠もエストロゲンとの関連が指摘されている。それ以外に憂鬱、イライラ、不安感、めまい、疲労感などの精神神経症状、頭痛、腰痛、関節痛、肩こりなどの痛みに関連する症状、しびれなどの知覚異常、全身倦怠感、動悸などの症状がある。これらの症状は多彩であり、しかも通常の検査では原因がつかめず不定愁訴とよばれている。
アメリカの報告では、更年期症状は平均で約10年間程度持続するといわれている。閉経前から出現した場合には、閉経後に出現した場合と比較して、更年期症状の持続期間が長くなる傾向がある。症状の程度はほとんど気にならないものから、この世の終わりというほど苦痛を訴える女性もあり、実に多様である。
エストロゲンの欠乏は継続しても、いずれ身体はその状態に馴化していることで次第に軽減する。また、更年期症状の背景にある家庭環境などが変化してくることも、自然に消失する理由のひとつであろう。
【更年期障害にはエストロゲンは最も有効】
更年期症状の根底にエストロゲンの低下があるが、それのみでは説明できない多くの要因が関与している。従って、エストロゲンを補えば更年期症状はすべて消失するということではない。のぼせ、発汗などの血管運動神経症状はエストロゲンの低下が直接関連しており、エストロゲンが有効である。閉経前のエストロゲンレベルに近い状態になるようにエストロゲンを補充すれば、90%以上の有効率が期待できる。それ以外の症状も、エストロゲンの低下によりもたらされる血管運動神経症状が二次的にさまざまな症状を発症していることも多く、エストロゲン製剤投与で軽減できる場合もある。例えば、抑うつ気分や不安感に対しては40%程度の効果が期待できる。なお、抑うつ状態に関してはエストロゲン低下に伴い、脳内のセロトニンが減少することやセロトニンに対する感受性が低下することが原因の1つと考えている。また、不眠や疲労感などに対してもエストロゲンは比較的有効である。なお、肩こり、腰痛などの痛みに対してはエストロゲン低下との因果関係は弱く、エストロゲン錠剤の有効率は高くない。
【閉経年齢が早い女性は脳卒中や心臓病などに注意】
エストロゲンが低下すると、一般的に動脈硬化が進みやすくなる。女性の閉経年齢は50歳前後であるが、閉経年齢が早いほど動脈硬化による脳卒中が増加する。また、骨粗鬆症のリスクも高まる。逆に、55歳まで月経があると女性では罹患率は低下する。
比較的若くして閉経を迎えた女性は、少なくとも50歳ぐらいまではエストロゲンの補充を行うことで、動脈硬化による疾患や骨粗鬆症をある程度予防可能である。この場合には、閉経後速やかに開始したほうがよい。なぜならば、エストロゲンが欠乏した期間が長期になるにつれて、動脈硬化が進行することになるからである。いったん動脈硬化が起こると、エストロゲンを投与しても改善せず、逆にエストロゲンの投与により、細くなった血管内に血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを高めることになる。
【男性にも更年期はあるのか】
男性は、女性の閉経のように急にテストステロンが低下する時期はない。テストステロン値は20代にピークとなり、その後、年齢とともに緩除ではあるが次第に低下する。
男性でも年齢不相応にテストステロンが低下すると、女性の更年期と似た症状がみられることがある。例えば、疲労感、抑うつ傾向、発汗、イライラ、睡眠障害、性欲減退などの症状である。最近、このような症状で生活に支障をきたすような男性を加齢男性性腺機能低下症候群(LOH)と診断し、積極的に男性ホルモンを投与すべきであるという見解が専門学会から提唱されている。俗にいう男性更年期ということになる。この場合は、40歳以上でテストステロン値が低下していることが前提で、上述の症状以外に、筋力低下や内臓脂肪の増加を伴っている。なお、うつ病などの精神疾患は除外する。
男性更年期と診断が下されるのは主に40~60代であり、女性の更年期のように、特定の時期に限定されてはいない。、また、女性の更年期障害のように性腺機能の低下と、それに起因するホットフラッシュなどの症状との関係が必ずしも明確ではない。従って、LOHに対する男性ホルモンの補充の効果は多少個人差がある。なお、男性におけるテストステロンの低下も、閉経後の女性にみられるように血管の老化に関係し、心臓病や脳卒中などのリスクが上昇するといわれている。
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