おとぎの国のエミコ

Aちゃんのお母さまは当然美人である。万事が質素なわが国のやんごとなき方々の中で、お母さまはヨーロッパの香りを持ち込んだおしゃれを心から楽しむ。服を自分のものにしていく気概とスタイルコンシャスは、このうえなくカッコいい。

いったいお母さまは今シーズンどんなものを購入して、それをどのようにコーディネートするのだろうか。おとぎ話のお姫さまのように、私の心の中にむくむくと芽生えた冒険心と好奇心。


しきりに紙袋が運ばれた部屋を振り返る私。知りたい、知りたくて仕方ない。もう頭がヘンになりそうだ。このまま帰ったら悔いと疑問のあまり今夜は眠れなくなるに違いない。

それで帰りぎわ、ごくさりげなくお母さまにこう話しかけてみた「お洋服を買われたのですか」

「ええそうよ。見せてあげるわ」光と影が戯れるように交錯し輝くビジューが爪先にあしらわれた、体重制限がありそうなピンヒールを履いたお母さまは、一番奥の部屋へと案内してくれた。


そこには私の知らないおとぎの国があったのである。

信じられないほど広い一室をお母さまは衣裳部屋にしていた。もちろんこれまた信じられないサイズのクローゼットもあるのだが、それに収まるはずがない。噂には聞いていたが、エルメスはずらーっと二段並んでいた。一段目はケリー、二段目はバーキンである。が、最近はセリーヌにも凝っているそうだ。三段目はコーナーになっている。日本でも、あっという間に売れ切れになってしまったという幻のものや、ヴィンテージのものもいっぱい。もちろんシャネルのバッグは、やわらかい分、それこそ積み重なって並んである。


次に洋服のラックを見て、それこそ私はめまいがしそうになった。アルマーニのオーストリッチのジャケット、エルメスのレザーのジャケットなんかが無造作にかけられているではないか。コンサバ系はもちろん、モード系でも女性だったら誰でも憧れるシャネルのツイードスーツはラックにびっしりだ。その横には毛皮が。ジバンシィのコートや、グッチのレオパード柄のロングコートにはやっぱりため息が出る。


おまけにジュエリーがすごい。黒真珠、ルビーのリング、アクアマリンのブレスレット、、、と書くといかにもお金持ちのオバさんっぽいが、どのデザインも凝っていてしゃれている。こんなに大きい宝石でも、こんなにカワイイものがあるのねと感心したほどだ。


お母さまんは紙袋の中の洋服をクローゼットのいちばん奥にしまう。さよう、おしゃれな人というには、今シーズン買ってきたものを着ることをせず、しばらく寝かせる。流行がほどよく抜けるのを待つのだ。お母さまが整理している間、私はジュエリーをじろじろ見た。親指ぐらいのダイヤのリングが光っている。これってニセモノよね、本物だったら、こんな絵皿の上にぽんと置いたりしないはずだ。それに大き過ぎる。


私はリングを眺め、そしてとんでもないことを口走る、、、「これって本物ですか」

ところが、そのダイヤも、一緒に置いてある真珠もルビーもみんな本物だということだ。

「わあ、すごい、夢みたい。私、頬っぺたをつねろうかしら」と私は大はしゃぎ。


お母さまは意を汲んで、それを私の指にはめてくれた。第二関節の上でピタリと止まる。このとき私はうちの呪われた遺伝子を恨んだ。

「これはサイズが異常に小さいの」人を心地よくする名人であるお母さまは、必死に取り繕ってくれる。これなら大丈夫なはずと、次はヘッドアクセサリーを私の髪につけてくれた。無垢な真っ白なパールに、同色のレザーのお花が咲き誇る風情。いじらしくなるほどの可憐さをもって、これほどに女性を包み込むものがあるだろうか。そのすべては心が洗われる美しさに満ちている。


「わあー、素敵よ。お美しいわ」などとお母さまは誉めそやしてくれた。

私って本当に宝石が似合う女性に思われていたのね。自分で言うのも何だけど、そお、何ていうのかしら、ゴージャスなイメージがあるのね、、、。

お母さまは言った「やっぱり宝石をつけるには、私や恵美子さんみたい(私も入れてくれて嬉しかったわ)に、背丈があって骨格がしっかりしてなきゃ。体が宝石に負けちゃうと思うの」


お母さまは私と違い、正真正銘のゴージャスないい女である。美人は努力すればそこそこの線までいく、というのが私の論である。魅力ある女性、というのはかなりの確率でなれる。が、ゴージャスな女性、というのはとてもむずかしい。


ゴージャスという言葉は、豊かさが含まれている。何も贅沢なものをいっぱい持っているかどうか、ということではない。贅沢なものが似合うかどうか、ということが問題なのである。デニムも似合うけれど、イブニングを着るとピタリときまる。ハイブランドをさりげなく着こなしてしまう。宝石をつけても、決して借り物のように見えない。

肉体も重要だ。ふくよか、というほどではないけれど、ボリュームを感じさせる体というものは、実はとてもむずかしいものではなかろうか。


内側も外側も輝くものがあって、それがバランスよく支え合っている女性にしか、ゴージャスは宿らない。一朝一夕には宿らないのである。お母さまは絶対にそれを知っていたに違いない。


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