美しさのまとい方 月経関連障害(2)
【治療】
月経困難症
月経困難症には、器質的疾患を認めない機能性月経困難症と器質的月経困難症があり、前者が全体の90%以上を占める。特に機能性月経困難症において漢方治療はNSAIDsや低用量ピルと並ぶ選択肢の一つである。機能性月経困難症にはNSAIDsは約60~70%の症例に対し有用で、頓服で即効性があるが、一時的な対症療法であり月経困難症そのものを引き起こさないようにさせる効果はない。
これに対して漢方治療は、随伴症状(冷え・頭痛・便秘など)を同時に改善でき、服用しているうちに月経困難症そのものが出現しなくなり、廃薬できる場合も多いことが特徴である。
月経困難症の症状として特に多い下腹部痛は、西洋医学的な診断がつかない場合も少なくない。診断がついたとしても、西洋医学的には治療選択肢が限られていることが多く、しかも治療効果が不十分なまま経過観察されることも少なくない。このような場合には、漢方薬が非常に有用である。
症状に焦点を絞った場合は、下記のような漢方薬が有効である。
①下腹部痛
♦芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) 頓服で使用しても、分2程度で月経時使用してもよい。即効性がある。芍薬と甘草の組み合わせには、金攣縮を和らげる作用があり、子宮の収縮痛を和らげる働きがある。
♦当帰建中湯(とうきけんちゅうとう) 血虚に気虚を伴う場合に用いる。
♦当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 血虚に水滞を伴う場合に用いる。
♦桃核承気湯(とうかくじょうきとう) 長期ストレス、便秘を伴う場合に用いる。
♦通導散(つうどうさん) 抑うつ、便秘を伴う場合に用いる。
♦桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 臍周囲の圧痛を目標とする。特に右下腹部痛がある場合は、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)を用いる。
②頭痛
♦当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) むくみやすい、頭重感や眩暈を伴うことが多い。胃腸症状が強い場合は六君子湯(りっくんしとう)と併用する。
♦呉茱萸湯(ごしゅゆとう) こめかみから後頭部の痛み、50歳以下、冷え。眩暈や動悸を伴う場合には苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)と併用する。
♦当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) 手足の冷え、しもやけができやすい。
③月経が過多
♦芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう) 血虚が著明な場合。
♦温経湯(うんけいとう) 血虚、瘀血があり、手足のほてり、手足、口唇のかさつきがある場合。
♦帰脾湯(きひとう) 心労があり、睡眠障害を伴うことが多い。
♦桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん) 臍周囲の圧痛がある。
♦桃核承気湯(とうかくじょうきとう) 便秘がある。S状結腸に特徴的な圧痛がある。
♦黄連解毒湯(おうれんげどくとう) 過食、飲酒を好む場合。便秘傾向のある場合には三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)を用いる。
月経前症候群
月経前症候群(PMS)は、黄体ホルモンの急激な上昇と低下が脳内のセロトニン代謝や体内の水分代謝に影響を及ぼすことに関係があると考えられているが、このような性ホルモン変動に加えて本人の気質や性ホルモンに対する感受性、環境の変化やストレスなどによって症状の程度や質が変わってくる。よって、その治療の、低用量ピル、SSRIやSNRIばかりでなく、心身のバランスを調える漢方薬が効果的であることが多い。
PMSは、産後や更年期における気分変調やうつなどとも関係が深いといわれている。20歳代の若いうちから適切な対処法を知り、改善しておくことは将来的な未病を防ぐことにもなる。
ここでは精神症状を中心に述べる。(下にいくほど症状の激しさが強くなる)
♦香蘇散(こうそさん) 悲哀感、身体表現が下手で行き詰まりを上手に発散できない。
♦半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 些細なことが気になる、神経質、几帳面。
♦当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 軽度のいらいら、頭痛、むくみやすい。
♦加味逍遥散(かみしょうようさん) 落ち込みやすい、症状がかわりやすい。
♦抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ) いらいらしやすい、怒りっぽい。
♦抑肝散(よくかんさん) 怒りっぽい。
♦桃核承気湯(とうかくじょうきとう) 便秘傾向、逆上しやすい。
血虚(けっきょ)・・・栄養・滋潤作用低下の症候で、広い意味での栄養不足状態
気虚(ききょ)・・・全身の機能・代謝・抵抗力の低下や、興奮性の減弱などに伴う症候
水滞(すいたい)・・・水分代謝の機能失調によって、蓄積した水湿で生じる症候
瘀血(おけつ)・・・血液の流れが滞ったり、遅くなったり、固まることで生じる症候
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