美しさのまとい方 エストロゲンと男性ホルモンは男女とも必須

【男性にとってエストロゲンは不要なのか】

男性では、男性ホルモンが優位であることは当然ではあるが、思春期以降常に一定量のエストロゲンが存在している。月経がある女性では、エストロゲン濃度は男性よりはるかに高い。しかし、閉経以降の女性では、同世代の男性のほうがエストロゲン濃度はむしろ高い。

男性、あるいはさまざまなオスの動物では、精巣でエストロゲンが作られている。生物が不必要な物質を産生することはまずあり得ないことから、エストロゲンは男性/オスにおいても、精巣局所あるいは全身に、なんらかの役割を果たしていると考えられる。


エストロゲンがその作用を発揮するためには、細胞に存在するエストロゲン受容体の存在が必要となる。1994年に見つかったエストロゲン受容体が欠損している男性では、男性ホルモンは十分に作用しているが、エストロゲン作用は廃絶していた。興味あることに、この男性は精子減少を伴う不妊であり、しかも、糖代謝の異常や心疾患のリスクが高く不健康な状態を呈していた。

また、まれではあるがエストロゲンを産生できない男性が知られている。この場合には、男性ホルモンは増加しているにもかかわらず、不妊で性欲は低下している。しかも、高身長となり骨は脆弱で骨折しやすくなる。このような男性には、エストロゲンの投与が必要となる。

これまで、男性では男性ホルモン(特にテストステロン)が異常に高値になると、性欲が過度に亢進し、逆に男性ホルモンの分泌が低下すると性欲がなくなることはよく知られていた。しかし、エストロゲンが完全に作用しないと、性欲が低下するというのは意外なことであった。ヒトにおける性欲は動物と異なり、必ずしも性ステロイドにより支配されるものではないが、少なくとも、正常な性欲の発現には男性ホルモンとエストロゲンがともに必要と思われる。

以上の事実から、男性にとっても、エストロゲンは生殖あるいは生命維持に必須なホルモンであるといえる。外見的な男性らしさに関係するのは男性ホルモンであるが、エストロゲンは男性ホルモンとともに男性における生殖機能に重要な役割を果たしている。さらに、脳内でエストロゲンが作用しないと男性に特有の性格や行動がみられなくなる。以上から、男女ともにエストロゲンは健康維持、生殖機能に必要なホルモンといえる。


【女性にとって男性ホルモンは不要なのか】

女性にも、男性よりはるかに少ないが男性ホルモンは存在している。最も強力な男性ホルモンであるテストステロンに関して成人男女で比較すると、女性は男性の1/20程度である。男性の男性ホルモンは主に精巣から分泌されるのに対し、女性は卵巣と副腎が主要産生臓器である。

女性では、思春期に先立って8歳ころから副腎由来の男性ホルモンの分泌が活発化する。この時期の男性ホルモンは、恥毛の発育に関係するとされている。また、一部は卵巣以外の部位でエストロゲンに転換されて、乳房の発育を促すことになる。

思春期以降は、卵巣でエストロゲンが多量に合成されるが、エストロゲンのもとになる物質は、男性ホルモンである。卵巣内に相当量の男性ホルモンが存在し、一部は血流を介して全身に作用する。従って、エストロゲンが存在すれば、同時に男性ホルモンも共存しているわけであり、男性ホルモンのみ欠乏した状態は生理的はあり得ない。


最近の研究では、男性ホルモンは卵巣内で卵が含まれている卵胞の発育、特にその初期の発育に生理的な役割を果たしているという説が広く認められつつある。さらに男性ホルモンは、女性の性行動を刺激するといわれている。例えば、男性ホルモンは、エストロゲンのように閉経後に急激な低下はみられないが、閉経後の女性に男性ホルモンを投与すると、性的行動が活発となるという報告が多くみられる。

一般に、男性ホルモンは骨量、筋肉量、筋力などを増やすが、閉経後の女性でも男性ホルモンの一部は女性ホルモンに転換されるため、男性ホルモンのみの影響を論じるのは難しい。

また、女性に男性ホルモンが過剰になると、顔や四肢の体毛が目立つようになるが、逆に頭髪が薄くなることがある。一方、閉経や両側卵巣摘除でエストロゲンと男性ホルモンがともに低下すると、頭髪が薄くなることがある。このような女性に男性ホルモンを投与すると頭髪が増える場合もある。女性の頭髪の維持には、一定レベルの男性ホルモンが必要なのである。




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